格子QCDの将来戦略検討会 7/27開催報告

7月27日、東京大学理学部1号館で格子QCDの将来戦略検討会が開催され、国内の研究者など31人が参加しました。

いま、格子QCDをとりまく状況は転換期を迎えています。格子QCDシミュレーションでは、3つのクォークからなるバリオン内部やバリオン間に働く力などを第一原理に基づいて直接求めることができます。より正確な記述を行うためにはシミュレーションの大規模化が必須で、そのためスーパーコンピュータの演算性能向上が常に求められています。

そんな中、今年度、筑波大学計算科学研究センターと高エネルギー加速器研究機構(KEK)のスーパーコンピュータが、より高性能なマシンに更新されます。加えて2012年度には、京速コンピュータ「京」の運用が開始されます。新たな時代を見据えた戦略が必要とされます。

検討会ではまず、HPCI戦略プログラム分野5統括責任者の青木 慎也(あおき・しんや)筑波大学教授から、「未だ世界で誰も実行していない最高レベルの格子QCD計算を行うことを期待しています。」と、趣旨が語られました。

KEKの金児 隆志(かねこ・たかし)助教からは「フレーバー物理のための精密QCD計算」と題する発表がありました。完全な素粒子理論を構築するために、SuperKEKBなどの素粒子実験と連携して、現在の標準理論を精密に検証することの重要性が強調されました。

筑波大学の蔵増 嘉伸(くらまし・よしのぶ)准教授は「京における大規模格子QCD計算」のプロジェクトの概要、研究課題のこれまでの成果、コード開発、タイムスケジュールなどを説明した後、3年後には「京」での成果を発信したいと話しました。

筑波大学の石井 理修(いしい・のりよし)准教授による「核力計算と原子核構造計算」の発表では、新アルゴリズムについて話が及び、参加者からたくさんの質問が寄せられました。石井氏は一つ一つに丁寧に答えた後、使用する利点と解決すべき課題について説明しました。

最後に新潟大学の江尻 信司(えじり・しんじ)准教授による「有限温度密度QCD計算」の発表が行われました。有限温度密度とは、宇宙初期のような高温領域や、超新星爆発のような高密度領域を指します。研究を進めることで、宇宙初期の状態を研究するRHIC実験、LHC実験や、超新星爆発研究に示唆を与える結果が出せることなどを語りました。

その後に行われた自由討論では、海外のライバルグループの動向を見据えながら、今後5年間、大規模格子QCD計算はどこに重点を置くべきか、どのように進めるべきかなどが、活発に議論されました。

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