2022年7月1日にオンラインにて、第15回HPC-Phys勉強会を開催しました。この勉強会は、計算基礎科学連携拠点(JICFuS)と理化学研究所R-CCSの共催です。参加者は講師を含めて26名でした。
今回も2名の方に講演をお願いしました。
宇宙がどのようにして現在の姿になったのか、という問いにはいろいろなアプローチがありますが、宇宙の中で銀河がどのように作られたのかを問うのもその一つです。1つ目の講演では、神戸大学の斎藤貴之さんに銀河形成のシミュレーションについて紹介していただきました。銀河の形成は、星の生成や超新星爆発を踏まえた非常にダイナミカルな現象です。銀河と個々の星では対象とするスケールも大きく異なります。ダイナミカルな現象を取り入れつつ、長時間(文字通り天文学的な時間!)の時間発展を計算機上で追いかける工夫や、スケールの異なる現象を取り入れる工夫について、解説してくださいました。富岳の全系を用いたシミュレーションでは、通信周りで苦労したとのこと。機械学習を取り入れて、恒星スケールを分解できるような高分解能なシュミレーションを目指しているそうです。
スーパーコンピューター「富岳」の開発では、ハード・システム・アプリの関係者が協力するコデザインという手法が用いられました。基礎科学の分野でコデザインの対象アプリケーションだったが、格子QCD向けのソルバー QCD Wide SIMD library (QWS) です。2つ目の講演では、理化学研究所の中村宜文さんから QWS の紹介がありました。開発の歴史の歴史に関する貴重にはじまり、QWSで用いているアルゴリズムの詳細や実装の工夫まで解説していただきました。富岳は先代の京コンピューターと比べて演算性能は約50倍になっていますが、通信性能は4倍にしかなっていません。一般に小さな問題を大きなスパコンで解くと通信に時間が取られて性能が出ないのですが、QWSの開発ゴールにしたサイズも富岳全系を使うには小さく、実行時間の半分が通信に使われているそうです。それにもかかわらず、富岳の(ほぼ)全系を用いた性能は102PFlopsで、京コンピュータと比べて38倍の性能を達成したとのことです。
講演資料は、勉強会 web site からご覧になれます。
http://hpc-phys.kek.jp/
世話人の一人である似鳥さんからは
「斎藤さんの銀河形成シミュレーションでは重力N体計算が構造の骨格を作りつつも極めて多彩な物理が絡み合っており、その難しさや大規模計算を実現するための工夫と努力を垣間見ることができました。中村さんの格子QCDソルバーは重点課題9のターゲットアプリであり、時系列を追っての開発を振り返りながら最終的に「富岳」で100 PFLOPS超えを実測するまでを話していただきました。」
とコメントをいただきました。
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