見上げてごらん、夜空の星を
流れ星が消える前に願い事を3回唱えると願いがかなう、という言い伝えを信じるなら、夏は願い事をかなえるのに適した季節です。7月下旬にはみずがめ座流星群が、8月中旬にはペルセウス座流星群がピークをむかえます。多くの流れ星に願いをかけられることでしょう。
夜空に月明かりも人工の明かりもなければ、写真のように、流れ星の背景に天の川を見ることができるでしょう。天の川は雲のように見える光の帯で、望遠鏡で観測すると、星々の集まりであることがわかります。夏の夜、日本はちょうど、星が密集している銀河の中心を向いているので、夏は天の川を見るのに適した季節でもあるのです。
それにしても、天の川は星一つ一つからできているのですから、天の川銀河を形作る星の多さに驚かされます。一体全体、天の川の星々はどのように誕生したのでしょうか。そしてどのような最期を遂げるのでしょうか?
どの星も星間ガスやちりが重力で集まることによって誕生しますが、その最期は、星の質量によって異なる姿をみせます。太陽質量の8倍以下の星の最期は、外層が膨張して周囲に広がった惑星状星雲となり、中心部は白色矮星というヘリウム、炭素、酸素などでできた天体になることがわかっています。
一方で、太陽質量の8倍以上の星は謎がいっぱいです。このような星は最期に超新星爆発を引き起こすことが知られていますが、どのようなメカニズムで爆発するのか、まだ明らかにされていません。そして爆発後、中性子星やブラックホールなど、あまり性質がわかっていない天体になったり、未解明の現象を引き起こしたりします。「ガンマ線バースト」はその代表といえるでしょう。これは40年以上前から知られており、1日に数回は観測されるほど一般的な天体現象ですが、未だにその発生源やメカニズムはわかっていません。これらの謎は、超新星爆発内部の物理的状態の理解なしに解くことはできません。
しかし、望遠鏡で観測してわかるのは星のごく表層だけで、内部の情報まではわかりません。アンドロメダ銀河までの範囲(約230万光年以内)なら、超新星爆発の時に放射されるニュートリノを観測することで、内部を探ることができるのですが、この程度の狭い範囲ではなかなか起こりません。
ほかに、超新星の内部を調べる良い方法はないのでしょうか。
計算すればわかる
国立天文台の研究員、滝脇 知也(たきわき・ともや)さんは、スーパーコンピュータを使って数値シミュレーションを行うことにより、超新星爆発の研究をしています。
天体観測をするために観測装置を作る必要があるように、数値シミュレーションには「ソースコード」を書く作業が欠かせません。ソースコードはコンピュータが計算をするための手順書で、FORTRANのようなコンピュータ用の言語で記述します。超新星爆発では、2万行ものソースコードを書くそうです。
「学部生時代から、誰かに教えられることなく、ソースコードを書いてシミュレーションをしていました。それに2万行の内、先輩などから引き継ぐ部分もあります」。
実は滝脇さんは前回ご紹介した国立天文台の固武 慶(こたけ・けい)助教の大学の後輩で、実際に固武さんが学生のときに書いたソースコードを元に発展させ、博士論文のシミュレーションに使ったそうです。今では2人は同じ研究グループで超新星爆発の研究をしています。
超新星爆発とは?
超新星爆発に至るシナリオは主に2つあると考えられています。一つは前回の固武さんの記事で登場した「ニュートリノ型」で、もう一つは「磁気駆動型」です。滝脇さんは主に磁気駆動型について研究を進めています。
超新星爆発を起こす直前の星の内部は、タマネギのような層構造になっています。表面に近いほうから水素、ヘリウム、炭素、酸素、ケイ素というように、中心に向かうほど重い元素の層が核融合反応により形成されます。そして中心部には最も安定な鉄のコアがあります。鉄コアが太陽質量の1.4倍くらいまで増えると、自分の重力を支えきれずに潰れはじめます。それが引き金となり、鉄の原子核が中性子まで分解されて、中性子のコアができます。そこに分解されずに残った鉄がぶつかり、はじきかえされた結果、外に向かう衝撃波が発生します。
「ニュートリノ型」では、鉄の内部を伝わる間に弱まってしまう衝撃波と、中性子コアで生成されたニュートリノが反応することで、衝撃波を再加熱して強め、爆発を引き起こすと考えられています。
それに対して「磁気駆動型」は、磁場によって爆発が引き起こされると考えられています。
どんな星にも磁場があり、星を1本の棒磁石と見なすことができます。これを磁軸といいます。磁軸と自転軸がほぼ同じで、鉄が磁力によってお互いに引き合い、磁力線に沿って並んでいるとしましょう。そうすると、外側の鉄よりも、内側の鉄の方が速く回転するので、磁力線が自転軸の周りにグルグル巻かれて密になります※。それはバネが押し縮められているのと同じ状態です。星の磁場が強く、自転が速いとバネがどんどん押し縮められ、いずれ反発して自転軸方向に爆発することになります。
※ これとは別に「磁気回転不安定性」という流体現象で磁場が増幅されるという説もあります。
ニュートリノ型と磁気駆動型の違いはどこに?
ニュートリノ型と磁気駆動型の爆発の規模は、親星(爆発前の星)のエネルギーが同じ場合、ほぼ同じになると考えられています。違いは爆発の方向に現れます。磁気駆動型は自転軸方向にジェットが噴き出して爆発しますが、ニュートリノ型はそこまで極端ではなく、比較的等方向に爆発すると考えられています。
ニュートリノ型と磁気駆動型の割合は、爆発の残骸から予想されています。ニュートリノ型では「中性子星」が残り、磁気駆動型では中性子星の一種で1000倍以上の磁場を持つ「マグネター」が残るのではないかと考えられています。その割合は観測からおよそ9対1。ですから、ニュートリノ型と磁気駆動型の割合も9対1と考えられています。
このように、ニュートリノ型と磁気駆動型では、爆発のメカニズムも、爆発後にできる天体も異なると考えられています。何が星の運命を決めているのでしょうか? 磁気駆動型は磁力線が自転軸の周りに幾重にも巻かれることが重要です。そのため、親星の自転は速く、磁場は強くなくてはなりません。また、滝脇さんの研究により、中磁場でも、自転が早ければ磁力線が巻かれて磁場が強くなり、磁気駆動型の爆発を引き起こすことがわかりました。星が引き起こす天体現象や、それによって形成される天体は、星がもともと持っている磁場、自転、質量で決まってくると考えられています。
今後の研究でわかること
両タイプのシミュレーションを実行すると対称的な結果が表れます。「磁気駆動型」のシミュレーションはほぼ想定しているとおりに爆発しますが、「ニュートリノ型」は40年以上の研究にも関わらず、未だに爆発していません。これは計算機の性能に限界があり、星を球対称の1次元でしかシミュレーションできなかったことが原因だと考えられています。固武さんと滝脇さんは、来年本格稼働する京速コンピュータ「京(けい)」で超新星内部の流体運動をニュートリノによる再加熱と同時に3次元シミュレーションすることにより、ニュートリノ型の超新星をコンピュータ上で爆発させる予定です。これにより、超新星爆発そのものの理解が大きく前進し、超新星爆発によって誕生する中性子星の理解が深まることが期待されます。
滝脇さんは今、超新星爆発のソースコードをベースに、中性子星になる星と、ブラックホールになる星の違いを作っているメカニズムを解明するソースコードを書いている最中です。このソースコードによって、ブラックホールの形成過程や40年間謎とされるガンマ線バーストの中心源の誕生過程が解明されるかもしれません。「シミュレーションでないと研究できない超新星爆発の研究は、自分の適性に合っていたんです」。そう、はにかんで話す滝脇さん。流れ星には「研究がうまくいって超新星を爆発させられますように」と、お願いしたいそうです。その願いがかない、滝脇さんのソースコードが星の最期の謎を解き明かす日を、楽しみに待ちたいと思います。滝脇さんの今後の活躍にご期待ください!