スパコンで予言する魅惑の新粒子「チャームダイオメガ」
-クォーク6個状態の謎の解明に新たな1ページが加わる-
2021年8月30日
理化学研究所
京都大学
理化学研究所(理研)数理創造プログラムの杉浦拓也特別研究員、初田哲男プログラムディレクター、仁科加速器科学研究センター量子ハドロン物理学研究室のトン・フイ研修生(研究当時)、リュ―・ヤン研修生、土井琢身専任研究員、京都大学基礎物理学研究所の青木慎也教授の共同研究グループは、チャームクォーク[1]6個からなる新粒子「チャームダイオメガ」の存在を理論的に予言しました。
本研究成果は、素粒子クォークがどのように組み合わさって原子核ができるのかという、原子核物理学の重要な問題の解明に貢献するものと期待できます。
物質を構成する素粒子クォークには、アップ、ダウン、ストレンジ、チャーム、ボトム、トップの6種類あることが知られています。陽子や中性子、その他複数のクォークからなる複合体のことを総称して「ハドロン[2]」といい、チャームクォーク3個からなるハドロンは「チャームオメガ」と呼ばれます。
今回、共同研究グループは、時間依存型HAL QCD法[3]と呼ばれる数理手法とスーパーコンピュータ「京」[4]、「HOKUSAI」[4]を用いた大規模数値計算を組み合わせることで、2個のチャームオメガ粒子間に働く力を計算し、新粒子チャームダイオメガの存在を理論的に予言しました。
本研究は、科学雑誌『Physical Review Letters』の掲載に先立ち、オンライン版(8月11日付)に掲載されました。
本研究は、日本学術振興会(JSPS)科学研究費補助金基盤研究(S)「クォークから中性子星へ:QCDの挑戦(研究代表者:初田哲男)」、同新学術領域研究(研究領域提案型)「第一原理計算から明らかにする階層構造の発現機構(研究代表者:肥山詠美子)」、MOST-RIKEN Joint Project “Ab initio investigation in nuclear physics”、文部科学省「富岳」成果創出加速プログラム「シミュレーションで探る基礎科学:素粒子の基本法則から元素の生成まで(課題責任者:橋本省二)」、同ポスト「京」重点課題9「宇宙の基本法則と進化の解明(統括責任者:青木慎也)」、計算基礎科学連携拠点(JICFuS)による支援を受けて行われました。
くわしくは理化学研究所のプレスリリースをご覧ください。
https://www.riken.jp/press/2021/20210830_1/index.html
発表者
- 杉浦 拓也(すぎうら たくや)
- (理化学研究所 数理創造プログラム 特別研究員)
- 初田 哲男(はつだ てつお)
- (理化学研究所 数理創造プログラム プログラムディレクター)
- トン・フイ(Tong Hui)
- (仁科加速器科学研究センター 量子ハドロン物理学研究室 研修生(研究当時))
- リュー・ヤン(Lyu Yan)
- (仁科加速器科学研究センター 量子ハドロン物理学研究室 研修生)
- 土井 琢身(どい たくみ)
- (仁科加速器科学研究センター 量子ハドロン物理学研究室 専任研究員)
- 青木 慎也(あおき しんや)
- (京都大学 基礎物理学研究所 教授)
掲載論文
- 論文誌名:
- 「Physical Review Letters」
- 論文タイトル:
- Dibaryon with highest charm number near unitarity from lattice QCD
- 著者:
- Yan Lyu, Hui Tong, Takuya Sugiura, Sinya Aoki, Takumi Doi, Tetsuo Hatsuda, Jie Meng, and Takaya Miyamoto
- 掲載日:
- 2021年8月31日
- DOI:
- 10.1103/PhysRevLett.127.072003
用語解説
[1] クォークは物質を構成する最も基本的な素粒子で、(質量の軽い順に)アップ、ダウン、ストレンジ、チャーム、ボトム、トップの6種類がある。このうちチャームクォークは、核子の約1.4倍の質量を持ち、素粒子理論におけるその役割から、魅惑的な(チャーム)クォークと名付けられた。
[2] 複数のクォークが結合してできる粒子を総称してハドロンと呼ぶ。陽子や中性子のほかに、ラムダ(Λ)粒子、デルタ(Δ)粒子、オメガ(Ω)粒子などがある。本研究で取り扱ったチャームオメガ(Ωccc)は、チャームクォーク3個からなる。チャームオメガは寿命が短くすぐに崩壊してしまうため、通常の物質中には存在しないが、数値計算ではその存在が予言されており、高エネルギー加速器で作り出せると考えられている。
[3] HAL QCD法は、格子量子色力学を用いることにより、ハドロンの間に働く力を量子色力学(QCD)から直接計算する理論手法。2007年に石井理修(現大阪大学核物理研究センター准教授)、青木慎也(現京都大学基礎物理学研究所所長)、初田哲男(現理研数理創造プログラムプログラムディレクター)により提唱された。その後、これら3人を含む、理研、京都大学、大阪大学、九州大学、日本大学、高エネルギー加速器研究機構の研究者からなる共同研究グループ HAL QCD Collaborationによって、さらなる発展研究が行われている。時間依存型HAL QCD法は、2012年に提案された改良版の手法で、複数のエネルギー固有状態を含んだ状態からハドロン間力を取り出すことが可能になり、数値計算誤差を抑えられる。
[4] 「京」は、文部科学省が推進する「革新的ハイパフォーマンス・コンピューティング・インフラ(HPCI)の構築」プログラムの中核システムとして、理研と富士通が共同で開発を行い、2012年に共用を開始した計算速度10ペタフロップス級のスーパーコンピュータ。2019年8月に運用終了。「HOKUSAI」は、幅広い分野の研究開発活動をカバーする目的で理研が運用するスーパーコンピュータで、計算速度2.6ペタフロップス。
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