格子QCD数値シミュレーションのゲージ配位データをDOI登録開始
2020.11.6
DOI運用部会: 天笠、吉江 (筑波大)、松古 (KEK)
デジタル・コンテンツの場所を表すのにURL(Uniform Resource Locator)がよく用いられますが、URLはしばしば変更されるという欠点があります。近年URLに代わって電子データを識別するために用いられているのが、DOI (Digital Object Identifier) です。これは学術論文や書籍、映像などに付与され、国際DOI財団が恒久的なアクセスを保証しています。日本ではジャパンリンクセンター(JaLC)が唯一の登録機関としてDOIを管理しています。
最近は文書や映像だけでなく、データに対してもDOIが使われることが増えてきました。たとえば数値シミュレーションによって作られたデータを使って研究を行った場合に、元になったデータをどのような形で引用するべきでしょうか。これまではそのデータに関する報告を行った論文を引用するのが一般的でしたが、それだとデータそのものを辿ることができません。もしDOIが付いていれば、そのデータがどのような研究に役立ったのかを直接調べることができるようになります。
素粒子に働く強い相互作用を数値的に研究する格子量子色力学(QCD)では、大規模な数値シミュレーションによって「ゲージ配位」と呼ばれるデータが生成され、これを基にして陽子や中性子などハドロンと呼ばれる粒子の質量や反応過程などを計算することができます。大きな計算機資源を使って作られたこのゲージ配位データを共有しようという目的で作られたのがILDG (International Lattice Data Grid)や、その日本でのグリッドであるJLDG (Japan -) です。JLDGは国内の研究機関を結ぶ高速ネットワークの上に築かれたデータグリッドで、格子QCDを含む計算物理のインフラストラクチャ-として重要な役割を果たしています。
JLDGでは国内の研究グループが生成したゲージ配位のデータを公開していますが、これらをDOIによって引用できるようになればとても便利です。このため計算基礎科学連携拠点(JICFuS)では、ゲージ配位データにDOIを登録する仕組みを整備してきました。拠点の一つである筑波大学計算科学研究センターがDOI登録に責任を持つJaLC会員となり、JICFuS DOI運用部会がDOI登録および公開されたデータを管理するという体制が2018年にスタートしました。実際のDOI登録までは多くの作業が必要でしたが、このたび最初のゲージ配位データに対するDOI登録が完了しました。
今回DOIが登録されたのは、PACS-CSコラボレーションが生成した、格子サイズ323 ×64の、2+1フレイバーの動的クォークを含むゲージ配位のデータです。2009年に論文が出版され、データが公開されて以来、多くの研究に用いられてきました。今後はDOIが付与されたことにより、これらのデータがどのように活用されたのかを調べることがより便利になるでしょう。
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- ゲージ配位データ:https://doi.org/10.34845/PACS-CS.000001
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- 論文:PACS-CS Collaboration, Phys.Rev. D79 (2009) 034503, DOI:10.1103/PhysRevD.79.034503
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- データ公開ページのURL: 2+1 flavor full QCD configurations by PACS-CS, https://www.jldg.org/ildg-data/PACSCSconfig.html