夜空に突然現れるひときわ明るい星「超新星」。星が最期に起こす爆発現象です。これまで、超新星爆発を起こすのは太陽質量の10倍以上の重い星、つまり質量(だけ)が大事だと考えられてきました。しかし、実際はそう単純ではないようです。福岡大学理学部の中村 航(なかむら・こう)助教は、超新星爆発には星の内部構造が深く関わっていると言います。いったいどういうことなのでしょうか。
「超新星爆発」にどう迫るのか
星が最期に起こす「超新星爆発」は、その激しさと美しさから多くの人々を惹きつけて止みません。この現象の謎に迫ろうと、これまで観測的研究と理論的研究が行われてきました。理論的研究では多くの場合、コンピュータを使った数値シミュレーションで、超新星爆発を再現することが目標とされてきました。2000年代に入り、ようやく爆発しそうなケースが出てきたものの、爆発を引き起こす過程は完全に解明されたわけではありません。超新星爆発は様々な物理が絡み合った複雑な現象であるため、その再現には「京」のような高性能スーパーコンピュータが大きく貢献しています(月刊JICFuS「超新星爆発のかぎをにぎるニュートリノ」2011年6月や「星の最期を探る」2011年7月を参照)。
「ちょっと違った切り口から理論的研究をしています」と話す中村さんは、超新星爆発が“星の内部構造”によってどう変わるか明らかにしようとしています。研究の発端は、「一般的に重い星は超新星爆発を起こすと言われるが、本当にそうなのだろうか」と疑問に思ったことでした。答えにたどり着くために、丁寧かつ大胆な検証を行いました。
400種類の星の最期の姿をシミュレーション
検証のためには、まず、実際に存在する可能性のある様々な星を用意しなければなりません。そこで、ある研究グループが計算した、質量や構成元素の異なる“超新星爆発を起こす可能性のある星”400種類を用意しました。そしてこの400種類の星がそれぞれどのような最期を迎えるのか、中村さん自ら計算したのです。
「現実世界では、一日に数個の超新星爆発が観測されています。しかし、それをコンピュータの中で正確に再現するのは、それ自体が大きな研究分野になるほど難しいのです。だからといって、ここで研究を止めてしまっては、どのような内部構造の星が爆発するのか知ることはできません。そこで、正確性を落とした簡易的な爆発をさせつつ、“これは外せない”と思われる大事な物理をしっかり取り入れました」。
その大事な物理というのが、ニュートリノによる加熱現象です。超新星爆発の再現では、途中で“衝撃波が勢いを失い爆発しない”ことが長年の問題でした。勢いを失った衝撃波を復活させるのに重要だとわかってきたのが、ニュートリノによる加熱です(図1)。ニュートリノの大部分は星を素通りして、エネルギーを外部に運び去りますが、ほんの一部が星を構成する物質と相互作用することでエネルギーを残します。残されるエネルギー量は、放出されるエネルギーの約1%とごく少ないですが、これが、超新星爆発が起こるか起こらないかの鍵を握っているのです。
こうしてシミュレーションした星の最期が、図2の動画です。爆発しているものもあれば、爆発に至らないものもあります。爆発するものの中にも激しいものから弱いものまで実に様々です。非常に重い星で爆発に至らないものは一般的にブラックホールになるとされますが、このシミュレーションでも同様の示唆が得られました。こうして400種類の星が一つひとつ異なる最期を迎えたことに対して、中村さんは「太陽の10倍以上の質量の星でも、比較的軽くて爆発しそうと思われていたのに爆発しないものがあるのには特に驚きました。爆発にこれだけバリエーションがあるのは、星の内部構造が関係しています」。
「超新星爆発の数が合わない問題」を解決か?
この研究の結果は、私たちに何を教えてくれるのでしょうか。「同じような質量でも、内部構造をよく見ると違いがあります。たとえば中心の鉄コアの質量や、それを覆うケイ素層の厚さなどです。これらは、爆発の鍵を握るニュートリノの放出量と密接な関係にあるのですが、実はコンパクトネスというパラメータに注目すれば、爆発には法則性があることがわかりました」。コンパクトネスとは、星の中心部分の密度に関する変数です。値が小さいと星の中心部はスカスカで爆発しやすいですが、その爆発は非常に弱くなります。一方、値が大きいと詰まっており、激しい爆発を起こします。ただ、詰まり過ぎていると爆発は起こりません。こうして、星の内部密度が爆発に関わっているとわかりました。
では、この結果は正しいのでしょうか。天文学における理論的研究の正しさは、観測事実と照らし合わせることで確かめられます。今回の結果は、中村さんが「超新星爆発の数が合わない問題」と呼ぶ天文学上の謎に迫れるかもしれないと言います。「銀河系の明るさから、その銀河系に存在する超新星爆発を起こしそうな星の数を予測することができます。ところが、この予測に対して観測される超新星爆発の数が少ないという問題があります。私の研究結果は、観測できない弱い超新星爆発がたくさん存在する可能性を示したことで、この問題への答えとなるかもしれません」。
また、超新星爆発には1051エルグ(1エルグ=10−7ジュール)のエネルギーが必要だとされてきましたが、それよりずっと少ないエネルギーでも爆発するという結果は興味深く、この独創的な研究は天文学に新たな知見をもたらすことになりました。
元素の起源につながる
中村さんはどうして「星の内部構造」に着目するのでしょうか。それには研究者としてこれまでに歩んできた道が大きく関わっています。「私は太陽系に存在する多様な元素の起源を探る研究をしてきました。たとえば、宇宙における元素の存在比を見ると、原子番号が大きい、すなわち重たい元素ほど少ない傾向があります。ところが、詳しく見てみるとそれにまったく当てはまらないものがあることに気づくでしょう。不思議ですよね」(図3)。確かに、リチウム(Li)やベリリウム(Be)、ホウ素(B)などが周辺の元素に比べて極端に少ないことがわかります。中村さんはこうした元素がどのようにできるかに興味があるのです。元素は、星の中心部で起こる核融合反応のほか、超新星爆発でも合成されます。そのため「もっと超新星爆発そのものを知らなくてはいい研究ができない」と思うようになり、今の研究を始めたと言います。そして「いつかまた元素の研究をしたい」と考えています。
ポスト「京」の完成と超新星爆発の発生を待ちながら
そんな中村さんには心待ちにしていることが2つあります。1つは、ポスト「京」の完成です。超新星爆発の詳細に迫ろうと、これまで2次元で行ってきたシミュレーションを3次元へと次元を上げようとしています(図4)。そのためには今以上の計算能力をもつスーパーコンピュータがどうしても必要です。
もう1つが、太陽系がある天の川銀河で超新星爆発が起こることです。「超新星爆発という天体現象は、いつ起こるかわからないですし、必要な情報を取得できるほど近くで起こることは、滅多にありません。私が研究対象としている重力崩壊型の超新星爆発は、観測上では400年以上も起こっていないとされています。ただ、今回の研究で弱い超新星爆発があるらしいことがわかり、観測できていないだけで実際には100年に1度くらいは起こっていると期待できるようになりました」。
それでも一生に一度訪れるかどうかのチャンス。その時に、自分の理論的研究が正しいかを確かめ、超新星爆発の真実に迫るためにも、今、中村さんは「京」を使った理論的研究を行ったり、超新星爆発をニュートリノや重力波によって観測する準備を進めたりしています。