プレスリリース

多波⻑同時観測でさぐる M87 巨⼤ブラックホールの活動性と周辺構造

多波⻑同時観測でさぐる M87 巨⼤ブラックホールの活動性と周辺構造
―地上・宇宙の望遠鏡が⼀致団結―

自然科学研究機構 国立天文台、東京大学 宇宙線研究所、工学院大学
広島大学、総合研究大学院大学、茨城大学、山口大学
計算基礎科学連携拠点
2021年4月14日

2017 年 4 ⽉、イベント・ホライズン・テレスコープ(EHT)と地球上の各地、さらに宇宙にある多くの電波望遠鏡、可視光線・紫外線望遠鏡、エックス線望遠鏡、ガンマ線望遠鏡が、楕円銀河 M87 の中⼼にある巨⼤ブラックホールを⼀⻫に観測しました。そのデータを組み合わせることで、この巨⼤ブラックホールがこのとき⾮常に「おとなしい」状態にあったことが明らかになりました。また、観測結果と理論・シミュレーション研究の結果を⽐較したところ、EHT で観測されたリング状の電波放射領域とは異なる場所でガンマ線が放射されていると考えると、観測結果をうまく説明できることがわかりました。これは、巨⼤ブラックホールが噴き出すジェットが複雑な構造を持っていることを⽰す結果であり、ジェットの形成メカニズムやブラックホールとのつながり、多彩な電磁波放射メカニズムの解明に迫るための新たな知⾒を与える成果といえます。

 本研究では多数の望遠鏡による観測の結果、巨⼤ブラックホールから噴き出すジェットの根元近く(0.3光年)から 5000 光年ほどまで広がっている姿が、様々な波⻑の電磁波で明らかになりました。これは、⾔ってみればジェットの「多⾊画像」を捉えたことになります。ほぼ同じタイミングで、これほど幅広い波⻑帯でブラックホールから放出されるジェットが描き出されたのは、これが初めてのことでした。

M87 の中⼼にある巨⼤ブラックホールのさまざまな波⻑の電磁波での観測画像。使⽤した望遠鏡により観測波⻑が異なり、また解像度(視⼒)も様々なため⾒えているスケールも異なる。 Credit: The EHT Multi-wavelength Science Working Group; the EHT Collaboration;ALMA(ESO/NAOJ/NRAO);the EVN; the EAVN Collaboration; VLBA (NRAO); the GMVA; the Hubble Space Telescope; the Neil Gehrels Swift Observatory; the Chandra X-ray Observatory; the Nuclear Spectroscopic Telescope Array; the Fermi-LAT Collaboration; the H.E.S.S collaboration;the MAGIC collaboration; the VERITAS collaboration; NASA and ESA. Composition by J. C. Algaba

 研究チームは、国⽴天⽂台が運⽤する天⽂学専⽤スーパーコンピュータ「アテルイ II」などを⽤いたシミュレーション研究や理論研究も⾏い、その結果と電波からガンマ線までの幅広い波⻑域の同時観測データとを総合的に⽐較することで、静穏期にあるブラックホール周辺のようすを理解することを⽬指しました。シンプルな理論モデルをもとに計算したところ、少なくとも今回の観測時期では、EHT で観測されるブラックホール近傍の電波放射領域とは異なる場所でガンマ線が放射されていると解釈することが最も⾃然であることがわかりました。アテルイⅡによるシミュレーションを⾏った東京⼤学宇宙線研究所の川島朋尚 研究員は「これまでしばしば、EHT で観測されるような電波と最⾼エネルギーの電磁波であるガンマ線は、同じ場所で放射されていると考えられてきました。今回初となる多波⻑同時観測データはこれまでの理論解釈に⼀⽯を投じるものであり、今後この分野の理論・シミュレーション研究が急速に発展していくことが期待されます」と述べています。

この研究は、⽂部科学省/⽇本学術振興会科学研究費補助⾦(18KK0090、JP18K13594、JP18K03656、JP18H03721、18K03709、18H01245、25120007、JP17J08829、JP19H01943、JP19H01908、JP19H01906)、⾃然科学研究機構、東レ科学振興会、⽂部科学省「富岳」成果創出加速プログラム、ポスト「京」重点課題 9「宇宙の基本法則と進化の解明」他の⽀援を受けて⾏われました。

くわしくは国立天文台のプレスリリースをご覧ください。
https://www.cfca.nao.ac.jp/pr/20210414

掲載論文

論文誌名:
The Astrophysical Journal Letters
論文タイトル:
Broadband Multi-wavelength Properties of M87 During the 2017 Event Horizon Telescope Campaign
掲載日:
2021 年 4 ⽉ 14 ⽇
DOI:
10.3847/2041-8213/abef71

「富岳」成果創出加速プログラム

領域①人類の普遍的課題への挑戦と未来開拓
量子物質の創発と機能のための基礎科学 ―「富岳」と最先端実験の密連携による革新的強相関電子科学
領域①人類の普遍的課題への挑戦と未来開拓
全原子・粗視化分子動力学による細胞内分子動態の解明
領域①人類の普遍的課題への挑戦と未来開拓
シミュレーションで探る基礎科学:素粒子の基本法則から元素の生成まで
領域①人類の普遍的課題への挑戦と未来開拓
大規模データ解析と人工知能技術によるがんの起源と多様性の解明
領域①人類の普遍的課題への挑戦と未来開拓
脳結合データ解析と機能構造推定に基づくヒトスケール全脳シミュレーション
領域①人類の普遍的課題への挑戦と未来開拓
核燃焼プラズマ閉じ込め物理の開拓
領域②国民の生命・財産を守る取組の強化
プレシジョンメディスンを加速する創薬ビッグデータ統合システムの推進
領域②国民の生命・財産を守る取組の強化
防災・減災に資する新時代の大アンサンブル気象・大気環境予測
領域②国民の生命・財産を守る取組の強化
マルチスケール心臓シミュレータと大規模臨床データの革新的統合による心不全パンデミックの克服
領域②国民の生命・財産を守る取組の強化
大規模数値シミュレーションによる地震発生から地震動・地盤増幅評価までの統合的予測システムの構築とその社会実装
領域③産業競争力の強化
省エネルギー次世代半導体デバイス開発のための量子論マルチシミュレーション
領域③産業競争力の強化
「富岳」を利用した革新的流体性能予測技術の研究開発
領域③産業競争力の強化
航空機フライト試験を代替する近未来型設計技術の先導的実証研究
域③産業競争力の強化
次世代二次電池・燃料電池開発によるET革命に向けた計算・データ材料科学研究
領域③産業競争力の強化
環境適合型機能性化学品
領域③産業競争力の強化
大規模計算とデータ駆動手法による高性能永久磁石の開発
領域③産業競争力の強化
スーパーシミュレーションとAI を連携活用した実機クリーンエネルギーシステムのデジタルツインの構築と活用
領域④研究基盤
全脳血液循環シミュレーションデータ 科学に基づく個別化医療支援技術の開発