重力波の源は、今回観測された2つのブラックホールの合体や、2つの中性子星の合体です。重力波の研究には、観測・実験が必要なのはもちろんですが、実は理論研究と数値計算研究の協働が欠かせません。重力波を観測するためには、その波形をあらかじめ正確に予測しておく必要があるからです。
重力波の波形を予測するためには、一般相対性理論の基礎方程式であるアインシュタイン方程式や、流体力学方程式、輻射輸送方程式を、スーパーコンピュータを用いた大規模シミュレーションによって正確に解くことが求められます。
ポスト「京」重点課題9「宇宙の基本法則と進化の解明」の主要なテーマの1つに、重力波に関するものがあります。中性子星やブラックホールが合体する現象を大規模シミュレーションにより解き明かし、合体時に発生する重力波および電磁波に対する理論的予測を与えて、重力波の観測効率を向上させます。それにより「重力波天文学」の発展に貢献していきます。
柴田 大・京都大学基礎物理学研究所教授
2016年2月12日
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左から順に、京都大学基礎物理学研究所長・佐々木 節教授、湯川記念財団理事長・九後太一氏、西村准教授、花田特定准教授、選考委員長/京都大学基礎物理学研究所・青木愼也教授
撮影・提供/湯川記念財団・京都大学基礎物理学研究所
受賞理由は「超対称ゲージ理論の数値的研究」です。西村准教授と花田特定准教授は1次元超対称ゲージ理論の新しい数値計算法を開発し、超弦理論※におけるゲージ重力対応の数値的検証を行いました。ゲージ重力対応は、超弦理論の研究において最も注目されているテーマの一つで、ブラックホールを含む時空上で定義された超弦理論が、より低い次元のゲージ理論と等価になるという予想です。
西村准教授と花田特定准教授はゲージ理論の数値計算を行い、その結果がブラックホールから得られる結果と一致することを示すことにより、ゲージ重力対応に対するいくつかの重要な検証を行うことに成功しました。また、ゲージ重力対応の研究に、数値計算という新しい研究手法を導入してその有効性を実証した点においても、高い評価を受けました。
本研究は、文部科学省HPCI戦略プログラム分野5「物質と宇宙の起源と構造」および計算基礎科学連携拠点の協力で実施したものです。
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左から鎌野寛之特任助教(大阪大学核物理研究センター)、池田陽一特別研究員(理化学研究所仁科加速器研究センター)、佐藤透准教授(大阪大学大学院理学研究科)
大阪大学核物理研究センターの鎌野寛之(かまの・ひろゆき)特任助教、理化学研究所仁科加速器研究センターの池田陽一(いけだ・よういち)特別研究員、大阪大学大学院理学研究科の佐藤透(さとう・とおる)准教授が、第20回(2015年)日本物理学会論文賞を受賞しました。早稲田大学で開催された日本物理学会第70回年次大会会期中の3月23日に、授賞式が行われました。
受賞論文
Yoichi Ikeda, Hiroyuki Kamano and Toru Sato, “Energy Dependence of KbarN Interactions and Resonance Pole of Strange Dibaryons”, Prog. Theor. Phys. (2010) 124 (3): 533-539
日本語タイトル:反K中間子‐核子間相互作用のエネルギー依存性とストレンジダイバリオン共鳴極
受賞論文は、原子核に反K中間子(Kbar)※1が束縛されてできる「反K中間子原子核」の研究に関するものです。反K中間子原子核は、存在自体の面白さに加え、中性子星内部のような高密度核物質の物性を探る鍵にもなると期待され、近年、理論的・実験的探索が活発に行われています。
反K中間子原子核は、反K中間子と核子(N)※2の間に生じる強い引力的相互作用(KbarN相互作用)のために、通常の原子核に比べて中心密度が数倍も高くなることが予想されています。論文の中で、量子色力学(QCD)の有効場の理論※3で記述されるKbarN相互作用を用い、反K中間子原子核の“プロトタイプ”である反K中間子1個と核子2個の準束縛状態(ストレンジダイバリオン)が存在する可能性を、Faddeev方程式に基づく三体系厳密計算により定量的に示しました。現在、ストレンジダイバリオンの実験的探索がJ-PARCなど国内外の加速器施設で進められています。この成果は、反K中間子原子核を用いた原子核物理学の端緒を切り開くとともに、その分野形成へ大きく貢献するものです。
本研究は、文部科学省HPCI戦略プログラム分野5「物質と宇宙の起源と構造」および計算基礎科学連携拠点の協力で実施したものです。
鎌野寛之氏の受賞コメント
このような素晴らしい賞に選ばれることは想像もしなかったので、今回の受賞には大変驚くとともに光栄なことと感じています。受賞対象となったストレンジダイバリオンの実験的探索が現在精力的に行われており、近い将来その存在が実証されるものと楽しみにしています。今回の受賞を励みに、ハドロンやハドロン少数系の構造・質量スペクトルの解明に一層取り組んでいきたいと思います。
池田陽一氏の受賞コメント
日本物理学会論文賞というすばらしい賞を賜り、身に余る光栄です。受賞対象論文は、私自身、大学院博士課程で行っていた研究をまとめたもので、それを評価して頂けたことも同時に大変嬉しく思います。こうした賞を頂けたのも、共同研究者の方々や家族の支えがあったからだと思います。
ストレンジダイバリオンの研究は、現在もなお、有効理論・実験の両面から世界中で活発に行われています。今後は、この分野の発展に格子量子色力学を用いた第一原理計算から寄与していければと考えております。
詳しくは筑波大学ホームページをご覧ください。
]]>永田氏は、格子QCDというコンピュータシミュレーション手法によって地球よりずっと高温・高密度での物質の状態や性質を研究しています。これらの解明は、私たちの宇宙を記述する理論を知る上で重要です。米国ブルックヘブン国立研究所の重イオン衝突型加速器RHICでは、実験によっても調べられています。
地球上は低温低密度(左下)で、素粒子クォークは陽子や中性子などのハドロン内に閉じ込められている。超新星内部のような高密度、宇宙初期のような高温ではクォーク・グルーオン・プラズマ状態へ相転移すると考えられている。
永田氏が本賞を受賞するにあたり対象となった研究は、”Wilson Fermion Determinant in Lattice QCD(格子QCDにおけるウィルソンフェルミオンの行列式)”。計算の途中に出てくるフェルミオン行列式の疎構造を利用して、時間成分を解析的に実行する公式を導き出しました。この公式を用いると、計算量が減るために計算効率が上がり、密度に関連する物理量の解析的な表示が得られるなどの利点があります。
簡単にいうと、永田氏の成果は符号問題に取り組むための1つの道具を作ったといえます。符号問題とは、密度がゼロではないとする条件下で格子QCDシミュレーションを行うと、計算の精度が下がったり、計算ができなくなったりする難題です。符号問題はフェルミオン行列式から発生するため、永田氏の成果から符号問題を回避する方法が開発される可能性が生まれました。
永田氏は受賞記念講演で「現状では大きい格子サイズでの計算が難しいという問題があります。今はその問題に取り組んでいます」と今後の課題について述べました。永田氏の研究が発展することで、私たちの宇宙を記述する理論への理解が深まることが期待されます。
]]>科学技術賞研究部門
「量子色力学の第一原理計算に基づく核力の研究」
初田哲男・理化学研究所仁科加速器研究センター主任研究員
青木愼也・京都大学基礎物理学研究所教授/筑波大学数理物質系(計算科学研究センター)客員教授
石井理修・筑波大学数理物質系(計算科学研究センター)准教授
若手科学者賞
「高精度大規模計算によるダークマター微細構造の研究」
石山智明・筑波大学計算科学研究センター研究員
科学技術賞の初田主任研究員(左)、石井准教授(右)、若手科学者賞の石山研究員(中)
賞の詳細、受賞理由等については文部科学省ホームページ
報道発表「平成26年度科学技術分野の文部科学大臣表彰受賞者等の決定について」(平成26年4月7日)
をご覧ください。受賞者一覧は最下部にPDFにて掲載されています。
実施期間は、2014年4月10日~5月12日(予定)
意見の提出方法などは、文部科学省平成26年4月10日報道発表
「ポスト「京」(エクサスケールスーパーコンピュータ)で重点的に取り組むべき社会的・科学的課題に関する意見募集の実施について」
をご覧ください。
科学技術賞研究部門
「量子色力学の第一原理計算に基づく核力の研究」
初田哲男・理化学研究所仁科加速器研究センター主任研究員
青木愼也・京都大学基礎物理学研究所教授/筑波大学数理物質系客員教授
石井理修・筑波大学数理物質系准教授
若手科学者賞
「高精度大規模計算によるダークマター微細構造の研究」
石山智明・筑波大学計算科学研究センター研究員
賞の詳細、受賞理由等については文部科学省ホームページ
報道発表「平成26年度科学技術分野の文部科学大臣表彰受賞者等の決定について」(平成26年4月7日)
をご覧ください。受賞者一覧は最下部にPDFにて掲載されています。
今後のHPCI計画推進の在り方(中間報告)
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shinkou/028/gaiyou/1337595.htm
猿橋賞授賞式。賞状を手に微笑む肥山詠美子・理化学研究所准主任研究員(右)。左は、一般社団法人女性科学者に明るい未来をの会・米沢富美子会長。
一般社団法人女性科学者に明るい未来をの会 第33回(2013年)猿橋賞の授賞式・記念講演会が、5月25日(土)、東海大学校友会館にて行われました。理化学研究所仁科加速器研究センターの肥山詠美子(ひやま・えみこ)准主任研究員が、受賞研究題目「量子少数多体系の精密計算法の確立とその展開」“Establishing an Accurate Calculation Method for Quantum Few-Body Systems and its Applications”(業績要旨)により選ばれ、賞状、副賞を授与されました。
授賞式に先立って、米沢富美子会長の挨拶、宮岡礼子・東北大学大学院理学研究科教授による特別講演がありました。「猿橋賞」贈呈に続き、肥山准主任研究員による記念講演がありました。講演では、原子核物理学者になったきっかけ、現在の研究内容、そして今後の目標などが、様々なエピソードを交えながら語られました。恩師である上村正康博士との出会い、研究者の道に進んですぐに参加した「国際計算テスト」(2001年)で自信をつけたこと、多くの共同研究者への感謝の気持ち。最後に、今後の目標として強く強調したのは、若手研究者の育成でした。「これまでは、周りを巻き込みながら“私が”がんばってきました。でもこれからは、若い研究者たちに成果を上げてもらえるよう“一緒に”がんばっていきたいと思います」。その後の懇親会では、故郷の同級生、原子核研究の同僚、そして家族から、たくさんの祝福の言葉やエールが贈られました。
肥山詠美子准主任研究員の受賞コメント(再掲)
「猿橋賞は、ずっと前から私のあこがれの賞でした。この賞をいただけて大変光栄に思うと同時に、身の引き締まる思いです。
この賞で評価されたことの1つは、我々の少数多体系計算法(無限小変位ガウスローブ法)をハイパー核物理へ応用したことだと思っています。現在、J-PARCを中心にハイパー核の実験が実施、または計画されています。今後、このハイパー核物理がますます発展するために、私も研究に一層邁進したいと思います」