異分野交流研究会は、HPCI戦略プログラムが開始された2011年から毎年開催されています。2013年11月13日~14日、岡崎市の自然科学研究機構分子科学研究所(以下、分子研)にて第3回の研究会が開催されました。発表者16人を含めた40人の参加者が、活発に議論を繰り広げました。
今回のテーマは「量子多体系のダイナミクス計算」。この背景としては、物質科学の研究で近年、フェムト秒(10−15秒)やアト秒(10−18秒)単位で化学反応の過程を観測できるようになったことがあげられます。このために、時間領域で電子やイオンの量子ダイナミクスを計算することが求められています。
一方、原子核物理学では、1970年代から時間依存平均場理論を用いた原子核衝突のシミュレーションが発展してきました。交流研究会では、分子科学・物質科学の分野からは光電子ダイナミクス計算や古典・量子混合ダイナミクス計算、原子核分野からは光応答や衝突現象に対する量子ダイナミクス計算を中心に発表がありました。
第2回までは大規模計算にもとづく発表が多く、数理科学や計算機科学からの発表もありました。世話人である筑波大学の矢花 一浩(やばな・かずひろ)教授は「今回は必ずしも大規模計算にこだわらず、これから大規模計算が必要とされる種を探すことを意識しました。このため、計算とともに物理の話にも重きを置きました」と言います。同じく世話人である分子研の信定克幸(のぶさだ・かつゆき)准教授は「今後の大規模計算をするためのきっかけをつかんでいただければと思います」と研究会冒頭の挨拶の中で述べました。
交流研究会では、研究支援に関する発表もありました。分子研の石村和也(いしむら・かずや)研究員からは、プログラミングやチューニングなどの技術および情報共有を目的としたCMSI 若手技術交流会やCMSIアプリ高度化合宿“TOKKUN!”の報告と案内がありました。
HPCI戦略プログラム分野5では素粒子・原子核・宇宙分野の研究者、計算機科学の研究者らからなるユーザー支援チームが組織されており、全国の素核宇分野の研究者から依頼があると、依頼内容に詳しいメンバーが解決法の提示やアドバイスなどを行っています。これまで、効率の良い並列計算のアルゴリズム、可視化ソフトの紹介、微分方程式の解法ルーチン、特殊な対角化ルーチンの開発などを扱ってきました。今後は分野2の交流会などに分野5の研究者が参加し、分野5のユーザー支援で分野2の研究者からの支援依頼を受けるなどにより、研究支援の面でも交流を深めていくことになりました。
分野2と分野5の連携によって、かつて南部博士がもたらしたようなブレークスルーが再び両分野にもたらされるかもしれません。