2008年度に発足した新学術領域研究「素核宇宙融合による計算科学に基づいた重層的物質構造の解明」(領域代表者・青木慎也、以下新学術「素核宇」)は2012年度で終了しました。素粒子・原子核・宇宙の分野融合を目指した新学術「素核宇」を総括し、研究成果、反省点をHPCI戦略プログラム分野5(以下分野5)にも引き継げるよう、2012年12月13日(木)~16日(日)に奈良県新公会堂のレセプションホールで国際シンポジウム「Quarks to Universe in Computational Science (QUCS 2012)」が’行われました。国内外から101人もの参加がありました。
このシンポジウムに先立ち、12月11日(火)には大阪大学でOne-day workshop on ab initio study of nuclear structure and reactionが開催され、19人の参加者がありました。また開催中の12月15日(土)の午後には、アウトリーチ活動の一環として、「クォークから宇宙まで」と題する市民講演会を同会場にて開催しました。益川敏英教授(名大/京産大)、小林富雄教授(東大素粒子センター)の講演に143人の来場がありました。
計算基礎科学連携拠点(JICFuS)は、新学術「素核宇」など分野融合の取り組みをさらに深め拡大させるため、2009年2月に設立されました。その後2011年度からHPCI戦略プログラム分野5の運営母体となったJICFuSは、新学術「素核宇」ととても深い関係にあります。
新学術「素核宇」は素粒子・原子核・宇宙の研究者がスーパーコンピュータを最大限活用する計算科学という手法を用いて共同で研究し、物質階層縦断的かつ分野融合型の新しい研究領域を構築することを目指してきました。
計 画研究班A01班「量子色力学にもとづく真空構造とクォーク力学」、A02班「クォーク力学に基づく原子核構造」、A03班「クォーク力学・原子核構造に 基づく爆発的天体現象と元素合成」 により物質構造の研究が行われ、A04班「分野横断アルゴリズムと計算機シミュレーション」はそれらを計算科学の観点から統一的にサポートしてきました。 総括班は4つの計画研究班の内部での共同研究だけでなく複数の計画研究班による 共同研究の促進に努めてきました。
シンポジウムでは、領域間でさまざまな共同研究が行われたことが発表されました。A01班(素粒子)が作成したストレンジクォークまで考慮した信頼度の高い格子QCDシミュレーションから、A02班(原子核)は核力が計算できるようになりつつあります。A02班と超新星爆発などの研究を進めるA03班(宇宙)は協力して原子核物理を考慮しニュートリノの影響を取り入れた状態方程式をつくりました。A03班(宇宙)はA04班(総括)の協力を得て3Dニュートリノ輸送の計算アルゴリズムを高速化しました。
JICFuS拠点長でもある青木氏は、新学術「素核宇」について「3つの異なる分野の研究者が知り合って、共同研究が進み、たくさんの成果ができましたが、個別の成果よりも、素核宇宙融合の機運が高まったことが一番の成果です」と総括しました。新学術「素核宇」の研究成果は今後も引き継がれていきます。より高い計算パワーを持ったスーパーコンピュータ「京」などでのさらなる進展が期待されます。