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12月10日(土)に工学院大学 新宿校舎で「多倍長精度計算フォーラム」第2回研究会が開催されました。6人の講演者による講演が行われ、計算科学者、素粒子物理学者など32名が参加しました。講演中も活発に質問が飛び交い、充実した研究会となりました。
通常の計算機の大半は浮動小数点※演算に、倍精度(10進約15桁)の演算器を使っています。多倍長精度計算とは、これより長い桁で計算を行うもので、たとえば4倍精度(10進約31桁)、8倍精度(10進約63桁)などがあります。多倍長精度計算は、計算結果の精度が求められるシミュレーションはもちろんのこと、計算の途中にほとんど等しい数同士の引き算があるために有効数字が激減したり、計算すればするほど誤差が大きくなってしまったりする場合などに役立ちます。さらにシミュレーションの結果の検算としても有効な手段です。
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KEK計算科学センターの石川正准教授
高エネルギー加速器研究機構(KEK)計算科学センターの石川正准教授は現状を踏まえ、「多倍長精度計算により新しい扉を開くことを期待し、情報交換や共同作業などが行える場づくりを目指したい」と挨拶し、研究会が始まりました。
多倍長精度計算を行う上での問題点は、計算時間が増えることにより、計算コストが大きくなることにあります。多倍長精度計算の性能評価についての講演では、計算機アーキテクチャや、プログラムを機械語に翻訳するコンパイラによって計算時間が左右されることが示されました。
多倍長精度計算の問題点をハードウェアの面から克服するためにいろいろな試みがなされています。その一つが専用プロセッサを自作することです。GPAPE-MPはKEKと国立天文台、会津大学、一橋大学が共同開発した4倍精度に特化したプロセッサで、素粒子反応や重力多体問題などのシミュレーションを得意としています。GPAPE-MPの性能評価に関する講演にはさまざまな質問やコメントが寄せられました。
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GPAPE-MP性能評価の様子。6ボードを搭載。提供:一橋大学 台坂博准教授
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GPAPE-MPのボード。撮影:KEK 佐藤伸彦氏
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ブレイクタイムにも活発に議論する研究者たち。左はGPAPE-MPの性能評価の講演を行った会津大学の中里直人准教授、右は多倍長精度計算の性能評価についての講演を行ったKEKの濱口信行研究員。
また、コンピュータの画像処理を担当する部品のひとつであるGPU(Graphics Processing Unit)に多倍長精度計算を実装する研究もなされています。GPUは演算が速く低価格であるので、ある種のシミュレーションにうってつけです。GPUで多倍長精度計算を行う研究発表にも多くの関心が寄せられ、盛んな質疑応答がありました。
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工学院大学の田中輝雄教授
計算をする上で欠かせない、よく用いられる計算手順をまとめたものをライブラリといいます。多倍長精度計算用のライブラリはまだ開発段階にあります。ライブラリの開発、改善、性能評価についての講演には、同じようにライブラリの研究開発を行っている研究者はもちろん、多倍長精度計算を始めようとしている研究者からも、たくさんの質問やコメントが寄せられました。
最後に工学院大学の田中輝雄教授は、「人的ネットワークを構築し、さらに議論を深めるために、これからも研究会を定期的に開いていきたい」と語り、研究会を締めくくりました。
用語解説
※ 浮動小数点演算
ほとんどのコンピュータでは、実数を表現するために浮動小数点表現を用いています。よく使われているIEEE754形式では、一つの浮動小数を単精度では32ビット、倍精度では64ビットで表現します。単精度では、32ビットを、1ビットの符号部、8ビットの指数部、23ビットの仮数部にわけます。これにより、単精度では有効桁数は2進で24桁(10進相当で7桁強)になります。
また単精度で表現できる実数の範囲は、最小値がおよそ-1.2 x 1038で、最大値がおよそ3.4 x 1038になります。倍精度ではビット数が倍になっていますが、仕掛けは同じです。
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