12月3日(土)~5日(月)に三重県志摩市の合歓の郷(ねむのさと)で「素核宇融合による計算基礎物理学の進展-ミクロとマクロのかけ橋の構築-」と題する研究会が開催され、素粒子、原子核、宇宙、計算科学分野の研究者70人の参加がありました。3日間で大学院生を含む52人が講演を行うタイトなスケジュールながらも、異なる分野の研究者から積極的に質問が寄せられるなど、充実した研究会となりました。
研究会の目的は、新学術領域研究「素核宇宙融合による計算科学に基づいた重層的物質構造の解明」の4年間の研究成果を振り返り、残り1年となった今後の研究計画について議論すること、HPCI戦略プログラム分野5「物質と宇宙の起源と構造」で展開される研究との連携を図ることにあります。
素粒子分野の研究成果としては、格子QCDシミュレーションによりクォークとグルーオンの性質を求める研究が進められ、He原子核などの結合エネルギー、核力、ハイペロン力などを計算できる道が開かれました。原子核分野では、原子核構造や核物質の状態方程式を決めるための研究が進められており、その計算に格子QCDによって求められる核力を用いる体制が整えられつつあります。宇宙分野では、中性子星の構造に重要な高密度核物質の状態方程式決定の研究が原子核分野と宇宙分野の研究者の連携のもとに発展しつつあります。さらに、超新星爆発のためのアルゴリズムの開発や、グラフィックカードを使った計算速度の改善など、計算科学的観点の報告もあり、新学術領域研究が目指す、素粒子・原子核・宇宙という物質の階層を越えた研究領域の形成がより一層進んだことが実感されました。
これらの研究の基盤となる数値計算手法の開発や環境整備は、新学術領域研究とHPCI戦略プログラム分野5の連携により進められています。今年は国内のスーパーコンピュータが次々と更新されました。そんな中、異なる研究機関の間での高速なデータ転送を可能にするデータグリッド「JLDG(Japan Lattice Data Grid)」は、得られたデータを公開、共有することによって研究者の間で有効利用する環境を整えることに役立ちました。今後はより使いやすい形に発展させるとともに、格子QCDだけでなく、他分野への支援を行うべく改良が進められます。格子QCDの共通コードの開発も着々と進められており、早ければ来年の3月にはプロトタイプとして公開されるとの発表がありました。これにより素粒子分野の研究がより円滑に進められることが期待されます。
宇宙分野の研究者で京都大学基礎物理学研究所の長滝重博さんは「原子核や素粒子などの話は普段聞けないようなところまで聞けて大変おもしろかったです。もっと議論したい」と研究会の感想を話しました。新学術領域研究の領域代表でHPCI戦略プログラム分野5の統括責任者でもある青木慎也・筑波大学教授は、「若手から質問がたくさん寄せられ、とても盛り上がった研究会となりました。来年は新学術領域研究の最後の年なので、国際会議として開催したい」と語り、研究会を締めくくりました。
新学術領域研究は、素粒子、原子核、宇宙の物質の階層を越えた研究領域の形成を目指し5年計画で推し進められているプロジェクトです。HPCI戦略プログラム分野5は2012年より京速コンピュータ「京」が本格稼働することを受けて、計算科学の重点分野を強化するためHPCI戦略プログラムに設置されたプロジェクトで、「京」を活用した素粒子、原子核、宇宙分野の研究を推進します。