新粒子候補テトラクォークZc(3900)の正体-大規模数値シミュレーションで解明

新粒子候補テトラクォークZc(3900)の正体-大規模数値シミュレーションで解明

理化学研究所
京都大学
2016年12月14日

要旨

理化学研究所(理研)仁科加速器研究センター初田量子ハドロン物理学研究室の池田陽一客員研究員、土井琢身専任研究員、初田哲男主任研究員、京都大学基礎物理学研究所の青木慎也教授らの共同研究グループ「HAL QCD Collaboration」は、スーパーコンピュータを用いた大規模数値シミュレーションにより、「クォーク」4個から成る新粒子と考えられていた「Zc(3900)」が、クォークの組み替えにより引き起こされる現象、すなわち「しきい値効果」であり、新粒子とは呼べないことを明らかにしました。

クォークは、物質の基本構成要素となる素粒子です。これまで、クォークが2個でできた中間子や、3個でできたバリオンが実験で観測されています。また、近年の加速器実験では、クォーク4個でできたテトラクォークや5個でできたペンタクォークといった新しいクォーク多体系の候補が発見されています。中でもZc(3900)は、クォーク4個からなる新粒子として、国内外の実験施設で相次いで報告されているテトラクォークの代表格です。このテトラクォークは、最終的に2個の中間子(中間子ペア)に崩壊して観測されます。

今回、共同研究グループは、このZc(3900)の正体を明らかにするために、クォークの基礎理論である「量子色力学」に基づいて、4個のクォークがどのように構成されるかについて、大規模数値シミュレーションを行いました。さらに、シミュレーションで得られた中間子ペアの間の相互作用を用いて、「散乱理論」による計算を実行しました。その結果、Zc(3900)は新粒子ではなく、崩壊先の中間子ペアが互いに入れ替わること(遷移)によるしきい値効果であることが明らかになりました。

本研究により、量子色力学に基づいた数値シミュレーションを行うことで、3個より多いクォークからなる新奇なクォーク多体系の性質を解明する理論的道筋がつきました。これにより、素粒子物理学・原子核物理学の理論研究が大きく進展すると期待できます。

本成果は、米国物理学会の学術誌『Physical Review Letters』(12月9日付け)で掲載されました。

本研究は、文部科学省科学研究費補助金新学術領域「計算科学による素粒子・原子核・宇宙の融合」、文部科学省HPCI戦略プログラム分野5「物質と宇宙の起源と構造」、文部科学省ポスト「京」重点課題9「宇宙の基本法則と進化の解明」の支援を受けて実施されました。

詳しくは理化学研究所のプレスリリースをご覧ください。
http://www.riken.jp/pr/press/2016/20161214_1/

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