量子力学的多体系の予測の難しさをランク付けする 統一的数値指標を提唱
プレスリリース
量子力学的多体系の予測の難しさをランク付けする統一的数値指標を提唱
−従来のコンピュータが達成した最高精度をもとに開発途上の量子コンピュータの達成目標も明確化−
国立大学法人東北大学
国立大学法人東京大学
2024年10月18日
発表のポイント
- 量子力学の法則に従って相互作用するミクロな粒子の集団、すなわち、量子多体系が引き起こす現象に着目する量子多体問題を解析した最先端の数値計算データを、国際協力体制のもと収集しました。
- 収集した計算結果がどれだけ精度よく量子多体問題を解析できているかを数値化する統一的な指標を提案しました。
- 収集した計算結果と統一的な性能指標を用いることで、物理学を含む自然科学の最重要問題の一つである、量子多体問題に対する従来のコンピュータを用いた数値解析手法の「立ち位置」が浮き彫りになり、量子コンピュータ(注1)が達成すべき量子優越性の基準が明確になりました。
発表概要
量子多体問題は、多数のミクロな粒子同士が量子力学の法則に従って相互作用し、複雑に絡み合うことで生まれる、物質の新たな性質や現象を理解・予測することで、自然界の現象を究極的に説明する挑戦的課題です。量子コンピュータを用いると、従来のコンピュータ(以降、古典コンピュータ)よりも性能良く量子多体問題を解析できる可能性(量子優越性)が指摘されていますが、どのレベルの計算を達成すれば量子優越性が実現されるかの基準は曖昧でした。
早稲田大学理工学術院のミハエル・シュミット次席研究員(研究当時)、東北大学金属材料研究所の野村悠祐教授とリコ・ポーレ特任助教、東京大学の今田正俊名誉教授(上智大学客員教授)は、スイス連邦工科大学ローザンヌ校のディアン・ウー博士課程学生、ジュゼッペ・カルレオ准教授を中心とする国際協力体制を組み、量子多体問題を解析した最先端の異なる手法による計算結果を収集し、その精度を表す統一的指標を提案しました。精度の数値化によって量子多体問題に立ち向かう数値手法の進歩の度合いが可視化され、また将来の実現が見込まれる量子コンピュータが取り組むべき課題・量子優越性の基準が明確に定まりました。
本研究成果は 2024 年 10 月 17 日(米国東部夏時間)に、科学雑誌 Scienceのオンライン版に掲載されました。
くわしくは東北大学のプレスリリース
https://www.tohoku.ac.jp/japanese/2024/10/press20241018-02-data.html
をご覧ください。
本研究は、文部科学省の科研費(課題番号:JP19H00658, JP21H01041, JP22H05111, JP22H05114, JP23H04869, JP23H04519, JP23K03307)、文部科学省スーパーコンピュータ「富岳」成果創出加速プログラム(課題番号:JPMXP1020200104, JPMXP1020230411)、科学技術振興機構の共創の場形成支援プログラム(課題番号:JPMJPF2221) の助成を受けて行われました。また、本研究は計算基礎科学連携拠点(JICFuS)のもとで実施されました。計算の一部には、理化学研究所計算科学研究センターに設置されているスーパーコンピュータ「富岳」 (課題番号:hp210163, hp220166)、および、東京大学物性研究所のスーパーコンピュータが使用されました。
論文情報
- 論文誌名:
- 「Science」
- 論文タイトル:
- :Variational Benchmarks for Quantum Many-Body Problems
- 著者:
- Dian Wu, Riccardo Rossi, Filippo Vicentini, Nikita Astrakhantsev, Federico Becca, Xiaodong Cao, Juan Carrasquilla, Francesco Ferrari, Antoine Georges, Mohamed Hibat-Allah, Masatoshi Imada, Andreas M. Läuchli, Guglielmo Mazzola, Antonio Mezzacapo, Andrew Millis, Javier Robledo Moreno, Titus Neupert, Yusuke Nomura, Jannes Nys, Olivier Parcollet, Rico Pohle, Imelda Romero, Michael Schmid, J. Maxwell Silvester, Sandro Sorella, Luca F. Tocchio, Lei Wang, Steven R. White, Alexander Wietek, Qi Yang, Yiqi Yang, Shiwei Zhang, *Giuseppe Carleo
- DOI:
- 10.1126/science.adg9774
- URL:
- https://www.science.org/doi/10.1126/science.adg9774
用語解説
(注1)量子コンピュータ
量子力学特有の性質を活用して計算を行う次世代のコンピュータを量子コンピュータと言います。従来のコンピュータ(しばしば古典コンピュータと呼ばれます)は、0か1の値を持つ古典ビットによる二進法を用いて計算を行います。一方、量子コンピュータの演算単位は量子ビット(キュービット)と呼ばれ、量子力学の性質によって0を表す状態と1を表す状態の「重ね合わせ」が許されます。この量子力学的重ね合わせと、量子ビット間の絡み合いの性質である「量子もつれ」の性質を用いて演算を行うことによって、特定の問題を古典コンピュータよりも高速かつ性能良く解くことができるようになると期待されています。
問い合わせ先
(研究に関すること)
東北大学金属材料研究所
教授 野村悠祐
Email: yusuke.nomura[at]tohoku.ac.jp
東京大学名誉教授
上智大学客員教授 今田正俊
Email: imada[at]g.ecc.u-tokyo.ac.jp
(報道に関すること)
東北大学金属材料研究所 情報企画室広報班
Email: press.imr[at]grp.tohoku.ac.jp
東京大学大学院工学系研究科 広報室
Email: kouhou[at]pr.t.u-tokyo.ac.jp