研究課題責任者
研究課題責任者
研究課題責任者あいさつ
私たちの課題「シミュレーションでせまる基礎科学:量子新時代へのアプローチ」は、文部科学省「富岳」成果創出加速プログラム(次世代超高速電子計算機システム利用の成果促進)に「大規模連携課題」として採択されました。
令和5~7年度にわたって「富岳」を用いた研究をすすめていきます。
「富岳」のもたらした計算パワーは基礎科学の分野でも大きな変化をもたらしつつあります。
素粒子原子核分野で進めてきた研究でも量子色力学の大規模なシミュレーションや原子核構造の詳細な計算などで、それまでとはレベルの違う計算が可能になり、研究が加速しているのは確かです。
しかし、研究がほんとうに面白くなるのはこれからだと私は思っています。大規模な実験プロジェクトからの成果も組み合わせることで、理論・実験・計算のそれぞれ単体ではできない発展が見られることを楽しみにしています。
今回の課題の大きな特徴は、素粒子原子核物理と物性物理との連携の試みです。一見したところそもそも似た分野だと思われるかもしれませんが、両者の交流はそれほど広まっていません。
もちろん研究対象が異なるので難しいのですが、一方で理論物理学として両者が使う手法は非常に似通ったものがあります。特に計算機を使って研究では、多体系の量子物理学の問題という共通した問題をあつかう仲間と言ってもよいでしょう。
両者の知見を合わせることで新しいアイデアが得られること、そして両者の連携がこの課題を超えて広がっていくことを願っています。
素粒子原子核と物性分野での共通する問題の一つは、いわゆる負符号問題です。
計算物理で中心的な手法の一つであるモンテカルロ法が、ある種の(非常に重要な!)問題に適用できないという厄介な問題です。もう何十年も大きな進展がないまま現在にいたっていますが、最近になってブレークスルーになりうる手法が出てきました。その可能性を富岳を使って検証する。それもこの課題ですすめることの一つです。
この課題のもう一つの大きな特徴は量子コンピューティングです。
もちろん量子コンピュータを開発することではありません。むしろ、富岳を使って量子コンピュータのシミュレーションをする、世界最大規模のシミュレーションを実現することを目指します。実機ができたときに、それがどう振る舞うかをあらかじめ予測しておくこと、さらには量子コンピュータの効率的な利用を考える上でもシミュレーションは重要な役割を果たします。
素粒子原子核から物性まで、現代物理学の中心となるキーワードはもちろん「量子」です。
シミュレーションを通じて量子の世界にさまざまな側面からアプローチするのが私たちの研究課題です。