研究開発課題責任者
研究開発課題責任者
研究開発課題責任者あいさつ
文部科学省スーパーコンピュータ「富岳」成果創出加速プログラムは、2021年度からの共用開始を目指した「富岳」を用いた成果を早期に創出することを目的としたもので、19課題が選定されています。
本課題「シミュレーションで探る基礎科学:素粒子の基本法則から元素の生成まで」は、①人類の普遍的課題への挑戦と未来開拓の領域において採択され、ポスト「京」重点課題9での研究・アプリ開発や、組織運営の経験を活かして、「富岳」の計算資源を使用することで速やかな研究成果創出を目指しています。
人類が挑戦を続けてきた大きな疑問があります。私たちの住む自然界はなぜこうなっているのか。そもそも宇宙はなぜこのような形で存在するのか。過去の研究が積み重ねてきた知見によれば、宇宙にはその全体におよぶ大きなスケールから人類が認識し得たもっとも小さなスケールまですべてを支配する基本法則があり、その基本法則にしたがって宇宙は生まれ、さまざま過程をへて現在に至ったと考えられています。現在知られている基本法則(素粒子の標準模型)と宇宙成り立ちの模型(ビッグバン宇宙論)は、数々の実験・観測による検証により精緻化され、それによって描き出された驚きに満ちた宇宙と物質の歴史は、大筋で正しいと考えられています。一方、物質と反物質の非対称性、重元素の合成過程、あるいはそもそも宇宙が生まれた理由など、残された謎も多いのです。
本課題は、宇宙を支配する基本法則と物質の成り立ちに関わる大きな謎を解明しようとする素粒子・原子核・宇宙分野の基礎科学研究に、大規模シミュレーションを通じて貢献しようとするもので、世界で進められている多くの研究のなかで、我が国で卓越した成果が見込まれる以下の6つの研究テーマを推進します。
B中間子崩壊: 格子QCDシミュレーションによりB中間子崩壊、特にB→πℓν崩壊の形状因子を精密に計算し、実験結果と組み合わせて素粒子標準模型を超える物理法則に制限をあたえます。
QCD相構造:カイラル対称性を保つシミュレーションにより、2+1フレーバーQCDの相構造を確立します。
バリオン間力:ハイペロン力や、さらに重いチャームクォークを含むバリオン間力の計算により未知の2バリオン状態の存否を明らかにし、J-PARCにおけるハイパー核実験やLHCにおける重イオン衝突実験につなげます。
核構造とr過程:原子核構造の研究を中性子過剰核に進め、重元素合成のr過程を定量的に理解することが大きなチャレンジとなります。
中性子星合体:中性子星合体のシミュレーションを進めて合体時の放出物質の性質を明らかにすることで、KAGRA等の重力波干渉計による重力波観測、光学望遠鏡による電磁波観測による検証へつなげます。
時空生成:すべてを説明する理論として期待されている超弦理論を出発点として、無から時空が生成して成長する様子をシミュレーションで明らかにします。
これらのテーマは実験・観測と結びついているのみならず、研究対象や計算手法において互いに密接に関連しており、協力して素粒子の基本法則から元素の生成までの謎を解明していきたいと考えています。