プレスリリース富岳・宇宙惑星

新しい高精度シミュレーションが明らかにした星団形成の現場

新しい高精度シミュレーションが明らかにした星団形成の現場

2022年6月8日

発表概要

星は分子雲という低温で高密度の主に水素分子からなる星間ガスの中で生まれますが、多数の星が近くで同時に生まれると、星団と呼ばれる星の集まりとなります。星団は大質量星(太陽の約 8 倍以上重い星)を含むことが多く、大質量星が生まれる場所として注目されています。自らの重力によってガスが落ち込んでくるような巨大分子雲で星団や大質量星が生まれ、大質量星はやがて星の原料となる分子ガスを電離し、吹き飛ばし、星形成を終わらせます。オリオン大星雲は、このような過程が今まさに起こっている現場だと考えられています。

星団形成の様子は、近年、スーパーコンピュータを用いた数値シミュレーションによって解析が進められています。数値シミュレーションは、天体現象の時間進化を理解する上で重要な手法ですが、現在のスーパーコンピュータで行うことができる数値シミュレーションの正確さには限界があります。

東京大学大学院理学系研究科の藤井通子准教授らは、独自に開発したシミュレーション手法を用い、これまでより星の運動を正確に解いた星団形成シミュレーションを行いました。その結果、星同士の重力相互作用によって大質量星が星団の中心から外縁部へと弾き出される時に、星団中心部分に集まる密度の高い分子雲の一方に穴を開け、星団の中心から一方向に広がる電離領域が作られました。また、ガイア衛星の観測データとの比較により、オリオン大星雲の大質量星の運動が、シミュレーションから予測されるものと一致していることを示しました。

本研究は「SIRIUS」プロジェクトの一環として、国立天文台の天文学専用スーパーコンピュータ「アテルイII」を用いて行われました。今後は、この新規開発コードを用いたより大規模なシミュレーションを行い、未だ形成過程の解明されていない大質量星団の形成過程を明らかにしていくことが期待されます。

この研究成果は、M. Fujii et al. “SIRIUS Project. V. Formation of off-center ionized bubbles associated with Orion Nebula Cluster”として、英国の『王立天文学会誌』に2022年6月8日付で掲載されました。

本研究は、科研費「銀河シミュレーションで探る星団起源ブラックホール連星の宇宙史(課題番号:19H01933)」、「球状星団の元素組成異常の起源の解明(課題番号:21K03614)」他(課題番号: 20K14532, 21J00153, 21K03633, 21H04499)の支援により実施されました。また、文部科学省「富岳」成果創出加速プログラム「宇宙の構造形成と進化から惑星表層環境変動までの統一的描像の構築」(JPMXP1020200109)および計算基礎科学連携拠点(JICFuS)の一環として実施されたものです。

シミュレーションによって描き出された形成途中の星団。青白い点は星を、赤〜緑色の領域はガスを表している。低温のガスを赤色に、高温のガスを緑色に色付けしている。(画像クレジット:藤井通子、武田隆顕、国立天文台4次元デジタル宇宙プロジェクト)

くわしくは東京大学大学院理学系研究科、神戸大学および国立天文台天文シミュレーションプロジェクト(CfCA)のプレスリリースをご覧ください。
https://www.s.u-tokyo.ac.jp/ja/press/2022/7926/
https://www.kobe-u.ac.jp/research_at_kobe/NEWS/news/2022_06_08_01.html
https://www.cfca.nao.ac.jp/pr/20220608

掲載論文

論文誌名:
Monthly Notices of the Royal Astronomical Society
論文タイトル:
SIRIUS Project. V. Formation of off-center ionized bubbles associated with Orion Nebula Cluster
著者:
Michiko S. Fujii, Kohei Hattori, Long Wang, Yutaka Hirai, Jun Kumamoto, Yoshito Shimajiri, Takayuki R. Saitoh
DOI:
10.1093/mnras/stac808

「富岳」成果創出加速プログラム

領域①人類の普遍的課題への挑戦と未来開拓
量子物質の創発と機能のための基礎科学 ―「富岳」と最先端実験の密連携による革新的強相関電子科学
領域①人類の普遍的課題への挑戦と未来開拓
全原子・粗視化分子動力学による細胞内分子動態の解明
領域①人類の普遍的課題への挑戦と未来開拓
シミュレーションで探る基礎科学:素粒子の基本法則から元素の生成まで
領域①人類の普遍的課題への挑戦と未来開拓
大規模データ解析と人工知能技術によるがんの起源と多様性の解明
領域①人類の普遍的課題への挑戦と未来開拓
脳結合データ解析と機能構造推定に基づくヒトスケール全脳シミュレーション
領域①人類の普遍的課題への挑戦と未来開拓
核燃焼プラズマ閉じ込め物理の開拓
領域②国民の生命・財産を守る取組の強化
プレシジョンメディスンを加速する創薬ビッグデータ統合システムの推進
領域②国民の生命・財産を守る取組の強化
防災・減災に資する新時代の大アンサンブル気象・大気環境予測
領域②国民の生命・財産を守る取組の強化
マルチスケール心臓シミュレータと大規模臨床データの革新的統合による心不全パンデミックの克服
領域②国民の生命・財産を守る取組の強化
大規模数値シミュレーションによる地震発生から地震動・地盤増幅評価までの統合的予測システムの構築とその社会実装
領域③産業競争力の強化
省エネルギー次世代半導体デバイス開発のための量子論マルチシミュレーション
領域③産業競争力の強化
「富岳」を利用した革新的流体性能予測技術の研究開発
領域③産業競争力の強化
航空機フライト試験を代替する近未来型設計技術の先導的実証研究
域③産業競争力の強化
次世代二次電池・燃料電池開発によるET革命に向けた計算・データ材料科学研究
領域③産業競争力の強化
環境適合型機能性化学品
領域③産業競争力の強化
大規模計算とデータ駆動手法による高性能永久磁石の開発
領域③産業競争力の強化
スーパーシミュレーションとAI を連携活用した実機クリーンエネルギーシステムのデジタルツインの構築と活用
領域④研究基盤
全脳血液循環シミュレーションデータ 科学に基づく個別化医療支援技術の開発