2012年秋の完成をめざし、理化学研究所計算科学研究機構において、ピーク性能10ペタフロップスという世界最速クラスの京速コンピュータ「京」の開発製作が行われています。この「京」を用いて革新的な研究を行うため、5つのHPCI戦略プログラムが選定されました。われわれ戦略分野5は、素粒子、原子核、宇宙物理など基礎科学分野の研究を行います。
私は素粒子物理学を専門とし、とくにクォークとグルーオンの力学である量子色力学(Quantum ChromoDynamics:QCD)の研究をしています。クォークは、グルーオンを媒介として強く相互作用をしています。クォーク3つが集まり束縛状態となったのが、陽子や中性子などのバリオンと呼ばれる粒子です。ところが、性質を調べようとバリオンから単独のクォークを取り出そうとしても、クォーク間の力が強いためにできません。これをクォークの閉じ込めと言います。この性質があるため、QCDを「紙と鉛筆だけ」の理論計算では研究することができないのです。
そこで発明されたのが、格子QCDという方法です。これにより、スーパーコンピュータを使った数値シミュレーションが可能になりました。格子QCDを用いることで、バリオンの質量やバリオン間にはたらく力なども計算できるようになってきています。
戦略分野5では、このような素粒子の諸問題、また原子核、宇宙物理のさまざまな課題を「京」を使って研究し、物質と宇宙の謎を解明していきたいと考えています。
2011年1月
HPCI戦略プログラム分野5「物質と宇宙の起源と構造」
統括責任者 青木慎也